目の前のお客様のためのスタイルを提案するのが重要
メンズビューティのリーディングカンパニーとなるために何が必要だとお考えですか。
僕が入社した当時はまだ1店舗でしたが、今では25店舗、400人超のスタッフを抱えるまでになりました。
とはいえ何かすごく新しいことをやり続けたというより、常にその時代の男性のお客様が求めているスタイルを提供し、お客様が求めている商材を敏感に感じとって形にすることを地道にしぶとくやり続けた結果、今のような規模への成長につながったと思っています。
なので、メンズビューティーのリーディングカンパニーを目指すといっても何かキャッチーなことはそれほどなく、今後も地味なことをコツコツと続けていきたいと考えています。
また、打ち出すスタイルが美容師のひとりよがりなものにならないようにすることも大事です。
たとえすごくカッコいいスタイルでも、一般の人たちの心に全く響かないスタイルっていくらでもあるんですよ。
カッコいいけどリアルじゃない、みたいな。メンズ雑誌に出るようになって当たり・はずれが露骨にわかるようになり、そこに気づきました。
目の前のお客様のためのスタイルを提案できないと意味がないんです。
そこを間違うと美容室としてはうまくいかないのかなというのは肌で感じました。これからもお客様に寄り添ったスタイルを提案できるお店であり続けられるよう、がんばっていきたいです。
クリエイティブを磨いて、講師として第一線で活躍したい
40歳を過ぎてクリエイティブへの挑戦を始めた理由を教えてください。

もともと作品作りは好きだったのですが、先ほどお話したようにリアルではないスタイルはサロンワークでは提供しづらいですから、お客様のために、会社のために「リアル」を全力で追求し、成功を収めることを優先し結果を出してきました。
40歳を迎えた頃にアカデミーがスタートして、サロンワークでは第一線でなくても、講師として技術とデザインが最先端で、むしろみんなよりちょっと先を行っているくらいじゃないと、と思いクリエイティブを始めてみることにしました。
クリエイティブの分野で磨きをかけることができれば、講師としての仕事に連動させて、より技術マニュアルの精度も高められると思ったんです。
それを機にコンテストにも出場し始めました。
コンテストでは若手に負けることも当たり前に起こりますが、僕は勝ち負けのプライドや保身に走るよりも、挑戦したい気持ちや結果を出すことの楽しみのほうが強いんです。
たまに「よく出ますね」と言われることもありますし、実際、ちょこちょこ負けましたが(笑)、「I.D. 2020」メンズデザインアワードでグランプリをいただけたのは本当にうれしかったです。
「タイムリミット」という裏テーマを掲げ、己の限界に挑戦
2022年11月開催「TWBC」でヘアショーに出演されましたが、いかがでしたか。

メンズらしさや激しさ、躍動感、疾走感などを表現したいと考えていましたが、裏のテーマは「タイムリミット」でした。
通常30分で提供する技術を3分でやろうというもので、ベースカット、量感調整、質感調整、スタイリングまでを3分で行い、それをモデルさん3人で表現。
クオリティを下げずに本当に限界の時間内でできるのか?という自分自身への挑戦でもありました。
毛先をちょっと切って、少し削ぎを入れたくらいで、あとは演出だけがんばったな、というのは見ていても退屈ですし、僕が表現したいこととも違うのでバッサリ切りました。
本音を言うと見ている人は気づかないくらいの失敗はありましたが、それをリカバリーできたことはある意味、成功だったと思います。
最後は「思い」が大事。技術+気持ちを燃え上がらせてほしい
若い美容師さんにメッセージをお願いします。
簡単に答えを聞いて、最短で目標にたどり着くことも大事ですが、「思い」とか「しぶとさ」、「情熱」が最終的には大事になってきます。
技術もSNSももちろん重要ですが、そういうハートがあって初めてお客様に受け入れられると思うんです。
とても高度な技術を持っていても的外れなスタイルでは気に入ってもらえません。
お客様を喜ばせようとする思いがあればリピートしてくれるはずですし、必ずカッコよくする強い思いを持って投稿すればSNSでもバズるはずです。
技術+気持ちを燃え上がらせてほしいですね。
僕はリアルスタイルをずっと追求して、40歳を超えてクリエイティブを始め、コンテストでも結果につながり、ヘアショーにも出ることができました。
それは僕自身が強い思いを持ち続けていたからこそだと思っています。
どこでも色々な情報が得られる今、全国どこからでも発信できますし、どんな場所でも若い男性をターゲットとしたサロンづくりはできると思います。
思いを強く持って、メンズビューティをみんなで盛り上げていきたいです。

矢崎由二(ヤザキ ユウジ)
山梨県出身。窪田理容美容専門学校卒業。都内サロンを経て2001年、『LIPPS hair』に入社。オリジナルカット技法「フレームカット」のマニュアル作りに尽力。2023年1月より、ハサミを置いて後進の指導に専念。クリエイティブやコンテストへの出場、ヘアショーへの出演など多方面で活躍中。

LIPPS hair
メンズヘアにいち早く力を入れ、存在感を高める。現在25店舗、従業員400名を超える規模に成長。2015年、「リップスアカデミー」を開校し、教育システムを抜本的に改革した。また、オリジナルプロダクツの開発やメンズアイブロウサロンの展開など、メンズビューティブランドへと進化し続けている。
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