数字ではなく、本来、大切にしなければいけないことに気づけた
TWBCでヘアショーに出演されたことで、得たことはなんですか。
出演させていただく以上は完成度の高いものをお見せしなければならない、中途半端に切るくらいならカットはしないくらいの覚悟で挑んでほしい、完成度の低いヘアショーなんて誰も見たくないよ、だから衣装も踏まえて全部しっかり作り込んでねということは事前にしっかり伝えていたので、そこをスタッフみんなで突き詰めることができたことは大きな収穫でした。
一方で、日頃、サロンワークでは客単価や客数などの数字と向き合い、インスタグラムではフォロワー数や再生回数などの数字を追いかけ、頭の中が常に数字に支配されている傾向にあり、本来いちばん大切にしなければいけないヘアスタイルの可愛さや見え方、自分自身のあり方が忘れられていることがよくあります。
しかし、ヘアショーでは自分のつくるビジュアルや所作など美容師本来の姿が赤裸々に表現されます。
それによって数字ではなく、何が美容師にとって本質的に大切なのかを再確認できたことも収穫の1つでした。
また、変な話ですが、僕は普段、わりと柔らかい雰囲気で話し方もフランクな感じなので、今回のヘアショーを通して僕のことを「すごい」と尊敬してくれたスタッフもいたようです(笑)。
僕のクリエイティブな仕事を間近に見たことが意外と少なかったのかもしれません。
リアルなイベントが戻ってくれば、美容業界の「奥行き」を感じられる
アフターコロナを見据え、どのような展開を考えていますか。
緊急事態宣言下ではお店を2カ月間休業して「今は動かない」という判断をしたのですが、2カ月も休むとそこからまた動き出すことそのものよりもスタッフの熱量を上げるのにとても苦労しました。
とはいえ、そこから2年経ってフランチャイズ展開を始めるなど、それまで思い描いていたことを形にするための時間でもあったと思います。
コロナ禍となってオンラインが普及し、セミナーなど教育の分野で情報を取り入れることがとても効率化されたと思いますが、アフターコロナではオンラインの良さは継続しつつもリアルなイベントはちゃんと戻ってきてほしいですね。
美容業界は本来、「奥行き」のある世界だと思うんです。僕が出させていただいたTWBCのヘアショーもそうですが目の前で見て感動することが大切なので、それがないと美容師がどんどんマニュアル化してしまいそうな気がします。
海外の行き来も制限されていましたが、チャンスがあれば海外出店も考えたいですし、海外のサロンに技術を教えに行くという構想もあります。
『SHACHU』にはカラーをしに来てくれる海外のタレントさんもいるのですが、今後も海外を視野に入れながらインスタグラムの発信を続け、海外のファンも増やしていきたいです。
素直な心を持ち、「心から美容師をやりたい」と思って仕事をしたい
これから創作してみたいことは、どんなことですか?
TWBCで他サロンさんのヘアショーを見て感動した、と先ほど言いましたが、素直に感動したり認めたりすること=「素直さ」をとても大事にしています。
同世代の美容師さんと仕事で一緒になった時も、一流の仕事をしていてさすがだなと感じたり、そういうすごい方が周りにいることに感謝したり。
天狗にならずに相手をちゃんと認め、わからないことは周りの人から教えてもらう姿勢を忘れないようにしています。そこで聞いたことを素直に受け入れ、吸収し、揉まれることが大事なんです。
自分に嘘をついて色々なことを隠しながら生きていくのはいやじゃないですか。素直な心を持っていれば生きやすくなると思います。
もう1つ大事にしたいことは、「心から美容師をやりたいと思って美容師をやる」ということです。
緊急事態宣言下で2カ月間休業した時、その直前まで毎日激務だったのですが、「こんなに美容師が好きなんだ」ということに改めて気付かされました。
生涯美容師と言わなければいけないから言うのではなく、心から美容師をやりたいと思って美容師をやりたいんです。
50歳になった時にもしも腕が落ちたとしてもそれまでに活躍しておけば、すごい才能を持った若者が登場したとしても潔く身を引けるのではないかと。それくらい全力で、自分の心に偽りなく美容師という仕事を貫いていきたいです。
近道をせず、スマホに依存し過ぎず、本能で突き進んでほしい
若い美容師さんにメッセージをお願いします。

がんばったらがんばっただけ結果はついてきます。近道を探す人が多いですが、近道と思った道が案外、遠回りになることもあります。
慌てずに基礎をしっかり固め、そこからステップアップして大きい成果を上げていくほうが結果的に近道なのかなと思います。
美容の世界は競争社会です。技術も接客も身だしなみも全部一流を目指さないと戦っていけません。
月の売上1000万円とか、インスタグラムのフォロワー数10万人とか、そういう数値目標を掲げることも良いのですが、マーケティングばかり考え過ぎて疲れていませんか?仕事は楽しいですか? 可愛いヘアスタイルやカッコいいヘアスタイルをつくることは楽しいことなので、そこに全力で向き合えばもっと美容師という仕事が楽しくなるのではないでしょうか。
今の若い人はスマホを見過ぎなんだと思います。インスタグラムは30秒あればアップできるはずです。
みんな考え過ぎなのです。「いいね」の数なんて気にしなくていいのです。
自分が「これがいちばんいい」と思えればそれでいいはずですし、仮に「いいね」の数が少なかったとしても自分のつくったヘアスタイルに自信が持てればそれでいいと思うんです。
そもそも「いいね」が欲しくて美容師になったわけではないですよね。
美容師をやっていく上で、可愛いヘアスタイルをつくれる自信がある時の自己肯定感は最強ですよ。
ただ、自己肯定感が高ければいいということでもありません。みんなが褒めてくれる時というのは、言い換えれば成長しない時でもあります。
ストイックというよりも美容師としての本能で、常に自分が成長できる場所を求めて突き進んでほしいです。

みやち のりよし(ミヤチ ノリヨシ)
1984年、岐阜県出身。山野美容専門学校卒業。都内1店舗を経て2014年に『SHACHU』を設立。インスタグラムのフォロワー数は30万人を超える。サロンワークの他、カラースペシャリストとしてセミナー講師や商品開発など多方面で活躍中。

SHACHU
カラー特化型サロンとして若い世代を中心に高い支持を集める。『シャチュー』とは、坂本竜馬とその同士20数人によって結成された日本初の商社兼私設海軍である「亀山社中」が由来。「社中」には「仲間」の意もある。渋谷で最先端のデザインカラーを提供し、渋谷系カルチャーを牽引している。