魅力的な体験がブランド価値を高める
CHITOSEさんのブランディングについて教えてください。
「ビューティー&ウェルネス」をブランディングの軸として考えています。人生100年時代を迎えるにあたって、お客様にはいつまでも元気で美容を楽しんでほしい、また身体の悩みを抱えたスタッフの心と体のバランスを整えてあげたい、という2つの願いを叶えるため、月の満ち欠けをコンセプトにしたエステ・カフェ・ヨガスタジオの複合施設「C.(シー)」を2年前にオープン。「ビューティー&ウェルネス」の体現者になった美容師が、その魅力をお客様に伝えるようにしました。ここでしかできない体験が、サロンのブランド価値を高めてくれると信じています。僕たちのビジネスモデルは先行投資型。勇気を出して未知の世界に挑戦し、コツコツと地道に成果を積み重ねていきます。美容と健康の新規事業は、都市部よりも少子高齢化社会待ったなしの地方にニーズがあります。浸透するまで時間はかかりますが、確実に手ごたえは感じています。
スタッフがのびのびと働ける空気づくり
スタッフとはどのようにコミュニケーションを取っていますか?
僕は自分も信じ、相手も信じるというスタンス。最後まで信用して付き合うことをモットーとしています。遊ぶ時は一緒に遊びます。僕が一番、くだらないことを言っているかもしれません(笑)。ごはんを食べに行くにしてもスタッフが行きたい所に行きます。韓流が好きな子には、たとえ興味が無くてもその話を聞いてあげます。スタッフの意思を尊重する気持ちが大切です。僕は最初の3年間怒られっぱなしでしたから、委縮して苦しい気持ちになることもありました。現場では、強く指導することもありますが、その理由を伝えて必ずフォローするようにしています。基本的にスタッフがのびのびと働ける空気づくりを心がけていて、たとえばスタイリストが施術中のお客様を、通りすがりに必ずほめるようにしています。その結果お互いに笑顔が出て、気持ちいい仕事ができます。そういう空気を作るのが僕の仕事。自分が担当しているかどうかではなく、お客様はCHITOSE全体のお客様ですから、その想いをスタッフと共有することも、大切なコミュニケーションだと思っています。またスタッフの作品撮りには必ず立ち会うので、その時の会話も大事にしています。
パターン化したやり方ではなく、考え方を教える
サロン作りの工夫や教育について教えてください。
サロンは作業する場ではなく、お客様と美容師が輝ける場所だと考えています。そのためにはこだわりが圧倒的に必要になります。2014年にオープンした「MAISON de Chitose」は、手作り感、手仕事感がお客様に伝わるよう、職人が1つひとつ丁寧に作り上げたイスや、天然の木をふんだんに使ったセット面を置いたり、イラストレーターに壁や天井に植物や動物の絵を描いてもらったり、世界観の細部にまでこだわってつくりました。また、教育については、技術は統一しなければいけませんが、僕とまったく同じコピーを作りたいわけではありません。スタッフ1人ひとりの個性を伸ばすことが重要です。パターン化したやり方ではなく、考え方を教える。1人ひとり骨格や髪質も違うため、お客様の不安と不満に真摯に向き合い、お客様の憧れに共感できる美容師になることを教えています。詰め込み型の教育では生涯美容師にはなれません。待遇だけで人を採用したり、1年でデビューさせたりでは、一生ものの技術は簡単には身につきません。とはいえ、5年も辛抱できない子が多い時代ですから、3年でデビューできるように教えています。1年目は徹底して人間力を鍛えます。素直、謙虚、感謝。こればかりです。僕たちも実践できていないといけませんからプレッシャーです。2年目から基礎技術に入り、3年目から応用、デビューというのが理想です。お客様の期待を超えたものが感動ですから、期待をしっかり把握した上で、それを上回る仕事ができるよう、指導しています。
教えることは学ぶこと。教える人が得をする仕組みづくり
スタッフのモチベーションを上げるために何かされていますか?
最近は働き方が多様化し、独立やフリーランスになることを前提に、他人と関わることよりも自分のスキルアップを優先する人が増えたように感じます。後輩に教えることは面倒で、自分が損をするという考え方は間違い。教えることは学ぶことです。損得勘定で動くビジネス美容師ではなく、人を大切にする生涯美容師が理想の姿です。教える人が正当に評価され、教わる人に感謝される仕組みの一環として、昨年からスタッフが得意分野で先生になる社内勉強会を始めました。これまでの受け身の姿勢と打って変わり、社内講師は自ら率先して学び、自分の言葉で伝えています。生徒の課題に本気で向き合うようになり、多くの気づきから学びを深め、他人の成果を素直に喜べる人間に成長しています。結果的に教える人の評価と給料も上がりました。

山村一志(ヤマムラカズシ)
CHITOSE代表。アートディレクター。
都内1店舗を経て1990年、母が経営する「ビューティサロンちとせ」に入社。2002年に事業継承し「ヘア&メイクサロンCHITOSE」をリニューアルオープン。2013年にアートディレクターとなり、2014年「MAISON de Chitose」オープンを機にCHITOSEの代表に。クリエイティブ活動を37歳(2006年)から始め、2011、2013、2014年JHA(Japan Hairdressing Awards)ノミネート、2013、2014年ABCフォトコンテスト2年連続グランプリなど、受賞歴多数。セミナー講師や雑誌への作品発表など多方面で活躍中。

CHITOSE
1976年、山口県周南市にて創業。2010年に「9MLG,BY CHITOSE」を周南市に、2014年に「MAISON de Chitose」を山口市にオープン。メイク・エステ・ブライダルまで上質な大人のトータルビューティを叶えるサロンとして、幅広い年代から厚い支持を集める。