突然起こった家庭環境の変化から、独り身の生活を余儀なくされた高校時代。高校を中退して家業であった理容業に進み、市内で人気のサロンへ入社。毎日のサロンワークを終えた夜に、自宅のサロンで友人を毎日カットしながら自身の腕を磨く。その後、以前から興味を持っていたアメリカンカルチャーをベースにした伝統的なバーバースタイルを追及し、今では第一人者として多方面で活躍する。
ライター 前田 正明 | カメラ 藤村 徹 | 配信日 2017.2.9
突然の家庭環境の変化で独り身になり高校を中退して理容業に進んだ
理容師になったきっかけを教えていただけますか?
もともと実家で母が理容室を営んでおり、理容師になろうと意識したのは中学生の頃でした。学校の先輩たちがしていたリーゼントに憧れて、お店で友だちのヘアを私が作っていくうちに理容に関心を持ち始めたんです。ただ、親の仕事ぶりを見ていて、年末年始はご飯を食べる暇もなく仕事をしていたイメージが強く残っていたので、大変な職業だなという実感はありましたね。高校時代はバイクや車や音楽など、アメリカンカルチャーにすごく興味を持っていました。勉強もせず趣味に没頭していましたね。とにかくカッコいいものが大好きで、夢中になっていました。そんな高校3年生の時、1人でお店を切り盛りしながら私を育ててくれた母が突然他界。私は一人になってしまったんです。どうすれば生活していけるか考えた結果、高校を中退して理容学校に入学することにしました。一人っ子だった私は生きていくために理容の道に進み、昼は学校で学んで夜は仕事をするという生活を余儀なくされました。それまで家の手伝いをしていたこともあり、専門学校時代はすでにカットやワインディングをマスターしていたため実技で難しいと感じたことはなかったですが、当時は1人で生きていくことに必死でした。
帰宅後に自宅のサロンで友人の髪をカットした日々
お一人で生活することのご苦労や新人時代に努力したことは何ですか?
卒業後、最初に勤めたのは旭川市内でデパートなどにも支店を展開していたユニセックスサロンで、5年間ほどお世話になりました。1日でも早く一人前の理容師になりたかったので、仕事から帰った後に友だちを自宅のサロンに呼んでヘアをカットしながら技術を身に付けていきました。友だちが徐々に他の友だちも誘ってくれて、夜の10時過ぎから毎日3人〜5人カットをしていました。家に帰っても一人だった当時、仕事後に友人と過ごす時間は唯一心が安らぐ時間でした。一番苦しい時に支えてくれた彼らには、今でも感謝しています。彼らに励まされながら、自分の腕を磨いてこの世界で頑張ろうという気持ちになりましたから。技術者になってからは、お客様をカッコよくしたいという気持ちで一生懸命接客をしていました。勤めていたサロンは、市内で流行を発信する人気店だったので、新人時代は仕事に集中していました。かなり忙しいお店でしたが、自宅のサロンで毎日接客の練習をしていたので、ワインディングやカットを任されてもスムーズに仕事ができました。その結果、3年で支店の店長を任されるまでになりました。
若干22歳で店長を任されるも待遇面で不安を感じ独立へと気持ちが揺らぐ
店長になって苦労したことや独立に関する経緯を教えてください。
私が店長になったのが22歳の時で、スタッフの中には年上の先輩ばかりだったので、難しい面がありました。また、新人が入店した時も私が指導をしていましたが、理容師としての目的意識を持たせることに苦労しましたね。当初はまだ独立は考えてなく、そのサロンで一人前になりたいと思って頑張っていました。自分で出店するよりも大きなサロンに勤めていた方が、発信力や影響力が強いことを知っていましたから。また、新人時代から先輩たちにいろんなところへ遊びに連れて行ってもらい、大勢の人と一緒にいることが楽しかったです。一方で、店長になってから多くのお客様を担当しながらも、給料面でいい待遇を得られずに悩んでいました。私には頼れる親も兄弟もいなく、生活する為には稼ぐ必要があったんです。そこで、オーナーに相談したところ、先輩が大勢いるので給料は上げられないという返事でした。実は、店長になってからも自宅のサロンでカットを毎晩続けていて、そんな自分のお客様が100人くらいいたので徐々に独立を考え始めましました。

アパッシュ CEO。北海道出身。旭川理容美容専門学校卒業。旭川市内のサロンに入社後、数店舗を経て独立し実家の理容室を継ぐ。学生時代に夢中になったアメリカンバイクやロカビリーなどのアメリカンカルチャーを体感するため渡米し、ハリウッズバーバーショップへ赴く。以降、渡米を繰り返してアメリカのバーバーカルチャーを学ぶ。現在はサロンワークを中心に、バーバーイベントやカルチャーイベントでオリジナルのバーバースタイルを発信。日本におけるアメリカンクラシックバーバーの第一人者として幅広く活動している。

アメリカンクラシックバーバーをコンセプトにして、ヘアスタイルのみならずカルチャーとしての理容室を展開。男らしさを追求したヘアデザインだけではなく、グッズ販売などを手掛けながら、北海道の皆様に愛されるサービスを提供している。