濱田有美子さん/銀座マツナガ 成田店 | ||
自分が学んだ厳しい教育方法で指導をした結果、ほとんどのスタッフが退職した。サロンがつぶれるか自分が理容師を辞めるか。そんな瀬戸際まで追い込まれた時、来店客の紹介で稲盛和夫氏の盛和塾に参加。 そこで経営者としてのあり方を学び、スタッフを幸せに導くためにシステムを変更。彼らの意識が高まり集客アップを叶えた。
ライター 前田正明 | カメラ 藤村 徹 | 配信日 2015.2.5
奥様へのプレゼントとしてエステをご予約される男性客
成田のサロンは半個室で男性用と女性用にブースを分けて、さらにエステルームも設けています。 場所は成田駅から徒歩約20分なので当初はお車で送迎をしていましたが、今ではお客様の安全に配慮するため往復のタクシー代を負担しています。それが口コミにつながり、さらにインターネットの効果で直営3店舗で毎月130人くらいの新規客があります。 理容店でありながら女性用のメニューも充実させているので、ご家族や友人を誘われるケースが増えました。中には奥様へのプレゼントとしてエステメニューをご予約される男性客もいらっしゃいます。 ホテル内で営業をしていた頃から、常にお客様の立場で接客を心がけているのでそれが評判をいただいているのだと嬉しく思います。スタッフ教育に関しては自由でマニュアルなどはありません。 ただし、私が伝えたいことは食事中や休憩中落ち着いた状態で目に留め、自ら考えてもらうため、スタッフルームに張り紙をするなどしています。 その他にも、私がまず実践をして気付かせるなど、視覚や感覚に訴えかけるようにしています。 それが浸透して、スタッフが自覚を持って行動するようになりました。 トップダウンで強制的にするのではなく彼らに気付いて行動にうつしてほしいというのが私の願いなんです。
物心ともにスタッフの幸せを考えるのが経営者の使命
実は私が教わったような厳しい指導をしたことで、過去にスタッフがほとんど辞めるという苦い経験をしました。 そして最後に残ったスタッフにも、「私は有美子さんのようにはなりたくない」と言われてしまいました。自分の教育方法の何がいけなかったのかが理解できず、でもこのままではサロンをつぶしてしまうと、苦悩の日々を送り、そしてお店が落ち着いたら退社して一人でお店をやろうとまで考えました。 その時、冷静にふと自分の事を考えたら、技術は一生懸命勉強したけれど、経営面の勉強をしていなかった事に気が付いたんです。 そこで、お客様からのご紹介で京セラ会長(前JAL会長)の稲盛和夫さんの盛和塾に参加し、経営者の心構えを学びました。 そこで「物心ともにスタッフの幸せを考えるのが経営者である」という言葉に衝撃を受けました。今まで自分がしてきたことは全く間違っていたんです。 さらに成功した異業種の方の実例を拝見してお話をさせていただく中で、自分には、経営者として一番大切なことが欠けていることに気付きました。それからはスタッフの幸せに繋がることは積極的に取り入れ、その逆のことはどんどん廃止し、サロン内のシステムを改革していきました。 ある時「理容師は素晴らしい職業だけど夜遅くまで練習して大変そうだから自分の子供にはすすめたくない」というお客様のひと言で夜のレッスンを中止して朝に変更。 朝のレッスンは営業でのウォーミングアップになり、また夜は彼らのプライベートが楽しめるなどメリットがたくさんありました。 効果のない朝礼や終礼も廃止するなどシステムを変えることでスタッフが自主的に行動するようになりましたね。 嘘のような話ですが、スタッフに余裕が出てくると、技術も向上するんです。刃物を持つ職業として、優しい気持ちになると扱い方も優しくなるんですよ。
カット・顔そり・シャンプーなど担当者で売上げを分配
システムを変更してことで、自然と売上もアップしました。当店では、カット・顔そり・シャンプー・セットなど、担当ごとにいただいた料金を分配して売上を計上しています。 その結果、入社間もないスタッフでも売上を上げることができ、意識が高まり1人当たりの売上額がアップしました。 メニュー作りは、お客様の声から生まれたものが多いです。当店では他店で付加価値メニューとされるエステやマッサージなどのメニューもすべてが主力メニュー。 スタッフ全員が施術できるよう準備をしています。男女別にメニューを用意しており、お客様のご要望にお応えしたいと増やしていった結果、今ではどちらもリーフレットに載せきれないほど増えてしまいました。 季節ごとにどんどん変わるし、お客様によってオススメするメニューも変わります。オススメにはPOPを活用していますが、どの位置にどのタイミングでどんなPOPを置けば効果があるのか、人間の脳科学や心理学を勉強し、実践しています。POP1つでも売上が変わってくるので、皆さんにも是非試していただきたいです。 また、実体験で良さを感じたリンパセラピーにも力を注いでいます。 リンパセラピーは理容室に最適なメニューだと思うんです。 外科医から始まったと言われる理容のルーツの通り、お客様に触れて、元気に気持ちよくリフレッシュしていただけるメニューです。私はこの素晴らしいリンパセラピーをもっと全国の理容室にも取り入れてもらいたいと思い、各地でセミナーや講習会もやらせていただいています。
最上級の設備でお客様に快適な時間を過ごしていただく
集客の面では口コミがメインですが、設備もその要因の1つです。女性が多彩な機能を搭載した理容椅子の施術に満足され、ご家族や友人などにオススメしてくれるんです。 お客様には快適な時間を過ごしていただくため、設備は最上級のものを、と考えています。そして高級なものを使うからにはメニュー・空間・環境にもこだわって、最高の状態でお客様をお迎えする努力をしています。 今ではスタッフたちの幸せな将来を考えてスムーズにバトンタッチをし、さらに理容業界のお役に立てるように私の持っているノウハウをお伝えしていきたいと考えています。 地方でスタッフが生き生きしてお客様に喜ばれているサロンがあると知っていただけるようセミナーも展開しています。 どうか、将来を担っていく若い方たちにこの仕事の良さを感じながら頑張ってほしいですね。私たちは刃物を持つ職業でありながら、お客様にリラックスしていただける技術を持っています。 理容師はヘアだけではなく、頭に触れ、お顔に触れ、体に触れ、全身をケアできます。こんなにやるべき仕事がたくさんあるワクワクする職業は他にはありません。どんな形でもこの素晴らしい技術と文化は後世に残していきたいですね。一緒に頑張っていきましょう!
有限会社銀座マツナガ取締役、銀座マツナガ成田店 店長。新潟県出身。東洋理容美容専門学校卒業。 卒業後に山口県防府市のヘアサロンに入社。その後、国際九州理美容選手権に出場し第5部で総合優勝し、銀座マツナガ ドイツハンブルグ店に勤務。 2000年に実家である銀座マツナガ成田店に入社。2004年に有限会社銀座マツナガ取締役に就任。2012年に東洋理容美容専門学校の講師に就任。 現在、サロンワークを中心に全国の理美容師に向けたリンパセラピーの講習も展開中。