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時枝弘明さん/asia

小中高とサッカー一筋だった少年がスポーツ特待の推薦入学をけって美容の世界に飛び込んだ。慣れない環境で悪戦苦闘を強いられるも、恵まれたサロンで美容の基本を徹底的に学んだ。そんな矢先に起こったかつてない大震災での避難所生活。友人を亡くし彼らの分まで悔いのない人生を歩もうと心のスイッチが入った。

ライター 前田正明 | カメラ 更科智子 | 配信日 2010.3.4

掃除と基本のシャンプーを徹底的に学んだ新人時代

私は高校時代までサッカーをやっていて、大学の推薦入学もいただいていました。でも、当時はまだJリーグもなく、スポーツでの進学を躊躇していました。そんな時、行きつけの美容室にいた男性美容師さんに、「仕事は楽しいですか?」と聞いたところ、「楽しいよ」と言われて興味を抱いたのがきっかけです。そんな軽い気持ちでしたね(笑)。そして、学校の先生に相談したところ、「お前はサロンに入社して通信で学んだ方が向いている」と言われ、高校3年の秋に美容学校の通信科に入学し、母の行きつけの神戸の美容室で修行をしました。最初に感じたのは、立ちっぱなしの仕事が苦痛だったこと。立ち仕事がキツくて、働き始めて3日で辞めようか悩みました。それと、何も分からない状態で美容の世界に飛び込んできたので、専門用語や技術がまったく分からなくて苦労しました。“ロッド”と言われても何のことかさっぱり分りませんでしたから (笑)。ただ、そこの先生はすごくきれい好きで、トイレは横になれるくらい徹底した掃除を学びました。それと、シャンプーの上手い先輩がいて、10ヶ月ほど厳しく指導してもらいました。今思えば、美容の基本を徹底的に学べたのがよかったですね。

壁に当たっても努力してマスターすれば褒めてくれた

新人の頃は常に壁にぶち当たっていました。ワインディングも1本巻くのに10分くらいかかっていましたし、国家試験もやっとの思いで合格したくらいです。さらに、1つのことをマスターすると次々に新しい技術が待っていました。できなくて悔し涙を流したこともあるし、何度も逃げ出したいと考えていました(笑)。同期の中でも一番下手でしたから。でも、サロンの環境や人間関係がよくて、小さいことにこだわらないその雰囲気が継続させてくれたのかもしれません。とにかく3年間は頑張ろうという気持ちでいました。時間がかかっても、努力してマスターすれば褒めてくれたので、それが嬉しくて続けられたような気がします。オーナーさんはすごく厳しい方でしたが、きちんとスタッフを見て評価してくれました。経営者になって思いますが、そんなサロン創りの大切さをこの時に学んだ気がします。特に、今の若い人は厳しいだけでは続かないですから、認めてあげることも大事だと思います。

阪神大震災で被災して本気モードになり上京を決めた

そのサロンはインターン生を経て23歳まで勤めていました。退職をしたきっかけは阪神・淡路大震災です。この震災でサロンも実家も倒壊してしまい、3ヶ月ほど学校で避難所生活を強いられました。そんな時に親から、「このままでいいの?」と言われて、それまで憧れていた東京のサロンに勤めようと考え始めました。当時、雑誌で発表していたビュートリアムの川畑タケルさんの作品に興味があり、流行の発信地である東京に関心を持っていました。それと、震災で友人を亡くした現実を目の当たりにして、生きているうちに悔いのない人生を歩みたいと決心したのも理由の1つです。自分が彼らの分まで頑張らないと失礼だという気持ちになり、それまで軟弱だった自分の心に変化が生まれたように思います。その3ヶ月間を経て、自分の中でスイッチが入ったような感覚でした。それから、東京にいた知人を頼りに、少しのお金と掛け布団1枚だけを持って上京しました。

asia 代表。兵庫県出身。日本高等美容専門学校(通信科)卒業。神戸で1店舗、都内で2店舗を経て、2003年にasia AOYAMAをオープン。サロンワークのみならず、様々なタレント・アーティストのヘアメイクとして活躍。そのかたわら、全国各地の審査員ならびに商品開発など様々な分野でも関わりを持つ。また、2006年度Japan Hairdressing Awards NEW COMER OF THE YEARを受賞。柔軟・繊細・大胆・アクティブと独自の感性を持ち、一般的なスタイルからクリエイティブな作品を幅広く生み出している。現在は日本だけでなく、アジアでも講習の幅を広げ、より多くの人に技術を伝えている。さらに、2008年12月には顧客別パーソナル対応型のサロンを神戸・三ノ宮にリニューアルオープンし更なる展開を継続中。

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